<< 緻密に強固に言語化された堤防を、映像の力で決壊させていく心地よさがある | main | こういう映画にしたかったのか、こういう映画にしかならなかったのかは判らないけれども、曲名からつけられたこの映画のタイトルは素晴らしい。 >>
2020.02.20 Thursday

知らなかったと言えば、いずれ無くなるような問題ではない。そんな映画を観てしまったことを誰かに伝えなければと思う。

『馬三家からの手紙』  原題:LETTER FROM MASANJIA

監督:レオン・リー 制作:フライングクラウドプロダクション

配給:グループ現代  2018年 カナダ 76

 

映画を観終わったときに、しばらくは言葉が見つからないことがある。

何から書けばいいのか、戸惑ってしまう。

またひとつ、海外の映画によって知らなかったことに触れることができた。何処かで、人が人らしくない扱いを受けている。知らなかったと言えば、いずれ無くなるような問題ではない。

そんな映画を観てしまったことを誰かに伝えなければと思う。

 

映画は一枚の紙片が発見されたところから始まる。

馬三家労働教養所で書かれたもので、施設の実態を告発する内容だった。馬三家労働教養所は政府が反体制的とみなせば、裁判抜きで収容することができる強制収容所であったという。法制度があるとは言っても反政府活動には問答無用の拘束がなされ、尋問や拷問も行われていたらしい。孫毅が教養所で書いた20通の告発文は、所内の労働所で制作されたハロウィンの飾り物に紛れ込ませて発送され、それが海外で売られ、紙片が発見されることをわずかに期待していた。その間、告発文のひとつが看守に見つかり、孫毅や仲間たちは次々に拷問を受けていたという。その紙片はアメリカ・オレゴン州のジュリー・キースによって発見された。

 

概要をこうして書いてしまえば、中国で起こっていることだから特に驚かない、と言われるだろうか?

孫毅が拘束されるきっかけとなったのが、「法輪功」の学習者であったということについてはどうだろうか? 「法輪功」は中国ではよく知られる健康法の「気功」から発展した修練法を学習する団体だったそうで、1992年に李洪志によって広められた。驚くのはその学習者が1998年に7000万人に達したために、中国政府はその拡大を驚異とし、非合法組織に定めて取締を開始した。映像で見ても、老人たちを中心とした朝の太極拳といった活動なのだが、何しろ波及の速度と組織力を恐れたのだろう。つまり「政府の管理下」に収まらなければ非合法という恐るべき判断が、こうした団体を摘発し、拘束し収束させようとする。北京五輪の開催期間が迫ると「法輪功」への弾圧が一層厳しくなったのだという。また、司法にしても警察にしても党の管理下であるから、こうした非合法組織のメンバーが拘束されても、行方不明になったケースも多いという。

馬三家労働教養所はそうした非合法活動家の受け皿であり、思想的な矯正所であった。アメリカで見つかった告発文は大きなニュースとなり、国内外からの批判を受けて、馬三家労働教養所は2013年11月に廃止された。しかし、実際はこうした施設は名前を変えて現在でも存在するらしい。

 

この映画の特徴は、監督のレオン・リーがカナダから様々な映像制作のレクチャーをして、孫毅や協力者が撮影した映像を極秘にやり取りして、編集されたものであることだ。例えば『ラッカは静かに虐殺されている City of Ghosts』(監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン2017年 アメリカ 92分)が、その殆どがスマートフォンで撮影された映像だったように、この映画でも撮影そのものが極めて危険な行為であるし、その映像ファイルをやり取りすることも、海外に送ったことも重罪に値する。また、孫毅によって描かれた図解やイラストをベースに制作されたアニメーションのパートも、過酷な状況を見事に描写している。

インドネシアに亡命を試みた孫毅が、告発文の発見者ジュリーに会うというひとつの大きな山場は、やがて訪れる悲劇を招き入れたしまったのではないかとも思ってしまう。こうした亡命者の悲劇はロシア人の例でも既視感がある。

 

中国は党=政府の管理下におかれた資本主義が急速に拡大している。歪な経済政策は貧富の差を拡大し続けている。もちろん中国には行ったことがないので、その実情は分からない。試写会のあとレオン・リー監督は、質疑の最後にこのようなことを話した。「中国の問題をひとことで言えば、プロパガンダと暴力だ。新型コロナウイルスの対応でも、初期対応が遅れた問題は隠され、武漢を封鎖したことだけが、党の功績と言われ続け、多くの人がそれを信じている」と。翻って日本はどうだろうか? プロパガンダと暴力は、程度の差はあるけれども、確実に現政権の問題点である。暴力とは、沖縄や基地問題、原発問題での民意無視であるし、沖縄では暴力による反対運動の排除が進行している。プロパガンダは、政府主導の犯罪的な行為(恣意的な学校認可と新設、国有地のたたき売り、公職選挙法違反、政治資金管理法違反、自衛隊法・憲法違反などの疑い)が、巧妙に都合良く言い換えられている。管理下に置かれた資本主義は、弱者を無視して富裕層だけを拡大している。ゆっくりとじっくりと、事態が進行している日本は、その解り難さ故にむしろ深刻かも知れない。

 

この試写会の最後にレオン・リー監督は言った。

「孫毅(スン・イ)が馬三家労働教養所で書いた手紙は20通ありました。発見されなかった19通はどうなったのでしょう? この映画を見た人は、孫毅からの手紙を発見した人のように、ここで観たことを誰かに伝えて欲しい。」と。

せめてこの映画を目撃する事、観たことを伝える事くらいしかできないかもしれないが、観たことの責任を感じ続ける映画になるだろう。

 

この映画に先立ち2018年9月19日に「NHKBS世界のドキュメンタリー」で同名の45分版が放送されている。

コメント
コメントする








 
Calendar
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< May 2020 >>
翻訳ツール
Facebook svp2ページ 更新情報
Selected Entries
Categories
Archives
Recent Comment
Recent Trackback
Recommend
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭
佐藤博昭、渾身の一冊です。個人映像の展開へのヒントになれば…。
Recommend
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力 (JUGEMレビュー »)
佐藤 忠男,吉岡 忍,森 まゆみ,池内 了,堀田 泰寛,小泉 修吉,矢野 和之,佐藤 博昭
Recommend
Recommend
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5)
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5) (JUGEMレビュー »)

佐藤博昭が「ビデオ・ジャーナリズムの現在」の項を担当しています。
Recommend
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭, 西村 智弘, 「Cine Lesson」編集部
SVP2を主催する佐藤博昭の共著本。
Links
Profile
Search this site.
Others
Mobile
qrcode
Powered by
30days Album
無料ブログ作成サービス JUGEM