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2020.02.12 Wednesday

緻密に強固に言語化された堤防を、映像の力で決壊させていく心地よさがある

『パラサイト 半地下の家族』

監督:ポン・ジュノ 2019年 韓国 132

 

先月、この映画を観た話を高校の授業の冒頭でしていたときに、この映画はカンヌでは最高賞を受賞したけれども、アカデミー賞というのは基本的にアメリカ映画産業に携わっている人が選ぶ賞なので、アメリカ映画と「それ以外」という考え方が主流なんです、などと言っていていたので、ちょっと慌てている。ここ数年はアトラクション映画に辟易とした反動なのかもしれないが、『パラサイト』自体はとても良くできた映画なので、複数の受賞はとても素敵な事件だと思う。

 

この映画を観たあとに、やはり脚本が良くできているなとは思ったけれども、しばらくその理由を考えていた。一方で、このところ映像祭や学生作品の審査などをしていて、それらの映像には何が足りないのだろうかとも考えていた。

たどり着いたのは、言語化のプロセスなのではないかということだ。それをやっていないということではなく、足りていないのではないかと思う。

 

シナリオは映像制作の設計図であるから、言語と、場合によっては設定や空間の俯瞰図など書かれている。その言語を元に絵コンテなどのより具体的な設計図に描き起こされていく。シナリオは状況とセリフが淡々と書かれているので、例えば「〇〇は、昨夜のことを思い出して、ひどく後悔していた」などという心情を表す言葉では書かない。ひどく傷ついている状況を「暗い部屋の窓際で、明かりも点けずにうつむいて座ったままじっと動かない」などと役者の有り様を説明する。それをどのような構図やカット割りで示すのかを絵コンテに描いていく。

ここで重要なのは、言語と映像化のための作業(構図を示したり、照明を作ったり、台詞のタイミングを作ったり)との間には、更に複雑な言語化の作業が必要だということだ。どのような心情で、何故、そういう態度を取るのか、何故そういう表情なのか、どこを見ているのか、何故、言葉に詰まるのか、間合いが必要なのか。そして、何故この場所や空間でやり取りや事件が起こるのか? そういうことは感覚的な作業ではなくて、むしろ極めて言語的で緻密な解釈の交換なのだ。あるいは語彙の問題だ。例えば「悲しみ」を伝える無数の言語表現のグラデーションを、伝える側がどのくらい持っているか。それをどのように具体的な人物の振る舞いに反映させるのか? 映像表現はこのプロセスに大きく左右される。

 

そして、映像表現が面白いのは、そうして丁寧に構築された言語的な構造に、あるカットの一瞬の驚きや輝きが唐突に裂け目を作って、一気に決壊させるようなダイナミックな展開を見せることがあり得るということだ。

 

『パラサイト』での雨や雷や洪水はそうした決壊を文字通りに示した映像的な魅力であるし、幸運の石も、モールス信号も、「半地下」「丘の上」という設定そのものも、「におい」という映らないものまでも、それらは丁寧に構築されていて、危うさとギリギリの均衡にある、不安定な状況を作り上げている。つまり、展開が唐突で予想外だから面白いのではなくて、どうすれば予想外の展開になるかが緻密に言語化されているから面白いのだ。それが、セリフに絵がついているような映像ではなくて、さらに複雑な言語化の作業があるから映像による破綻が見えてくるのだ。

もちろんシナリオを読んだわけではないので、これらが的確かどうかはわからない。また、こういう言語化の重要性は劇映画だけの問題ではなく、ドキュメンタリーでもビデオアートでも同様だ。

 

ここに書いたことは、シナリオの作法や映画制作では当たり前のことではないか、と思われるだろうか?

今、この国で最も言語的な能力を疑われているような人たちが、政治を動かしている。「クールジャパン」がダメだとは言わないが、テレビCMでは声が大きくて馬鹿っぽい若者がダジャレを言うようなモノばかりだ。お笑い芸人のように、素早い反応や反射だけが巧みな言葉遣いだと思われている。一方で政府は文学や文系を軽視し続け、熟慮や議論を避けて中途半端な同調が良しとされる。こうした政策が、ゆっくりとじっくりと若者や学生たちにも浸透しているように思われるのだ。

 

いずれにしても、改めて目指そうと思ったことは、映像の設計図を徹底的に言語化の作業で詰めて構築して、それをはみ出していくような映像的破綻を積極的に許容すること。

これからはいくつかの授業では、もっと言語化と解釈の作業に力を入れていこうと思った次第です。

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