<< 厳しい労働環境を描いた映画なのだろうという勘違いは、心地よく裏切られた。 | main |
2019.01.13 Sunday

谷口正晃監督の『マザーズ2018』を観たことで、いくつかのドキュメンタリーが繋がった。

『マザーズ 2018 僕には、3人の母がいる』

監督:谷口正晃 中京テレビ 2018年 71

 

2018年12月14日は、大学時代の恩師・波多野哲朗先生のお誘いで「無名庵シネクラブ」の上映会に参加した。この日は日向寺太郎監督の『誰がために』を観た後、日向寺監督と彼の大学の同級生である谷口正晃監督、そして彼らの飲み友達枠で僕がトークに参加することになっていた。3人とも波多野哲朗ゼミで学んだゼミ同窓生でもある。僕は彼らよりも4つ学年が上だったが、僕は卒業後に研究室の仕事をしていたので、彼らが3年生までは学校でよく会っていた。そして、そういうつながりで波多野先生を囲んで、年に1〜2度飲み会を続けている。

 

谷口くん(ずっと日向寺くん、谷口くんと呼んでいるので監督と呼ぶのはこちらが照れくさい)は、その会の打ち合わせをしている時に、「最近作ったドラマなんです、よかったら観てください」と言って、お茶菓子を食べながらディスクを渡してくれた。ディスクには赤みがかった肌色に赤ん坊の横顔がプリントしてあり、『マザーズ 2018 僕には、3人の母がいる』と少し細い書体で書いてあった。実は以前も同じように「最近作ったドラマんですよ、よかったら観てください」と、居酒屋の狭いテーブルを挟んでディスクを渡された事がある。『人質の朗読会』と『マザーズ』と書かれた2枚だった。『マザーズ』というタイトルに覚えがあったので、「あれ、これは前にもこのタイトルで〜」と言ったら、「シリーズの新作なんです」と、せんべいを食べながらぼそっと話した。彼は、あまり作品のことを多くは語らなかったが、僕が「これ、中京テレビのドキュメンタリーがなかった?」と訊くと「それがベースになっているドラマなんです」と話してくれた。

後で調べていてわかったことなのだが、中京テレビはドラマ「マザーズ」を2014年から定期的に製作していて、2018年が5作目にあたる。すべてに谷口正晃監督の名があった。僕が以前にもらった「マザーズ」は、2014年10月18日に放送された『中京テレビ開局45周年記念 マザーズ』だった。このときの主人公・山瀬健太は、岐阜のパン屋で両親に育てられ、成人が間近な浪人生活を送っている時に、特別養子縁組で養子として引き取られたことを知る。携帯電話の家族割引契約のために、戸籍謄本を取りにったことでそのことが発覚する。家族の証明書で養子であった事実がわかるという設定も皮肉であるが、谷口監督はこの作品の冒頭で、ラブホテルに彼女を誘い込んだ健太ののんきな性格を描いている。健太は戸籍を起点にして、「NPOスマイルベイビー」を訪ねて、代表の奥田貴子に会う。少しづつ自分の出自に関わる事実を理解し始める健太は、貴子に半ば強引に誘われて「スマイルベイビー」の雑事を手伝うことになる。そして、そこに暮らす妊婦たちや、新たに保護された城田紗衣と接するうちに奥田とスタッフの活動を理解していく。2018年の『マザーズ』では、健太は就職が決まったという設定で、岐阜の両親が奥田とスタッフのところに報告に来る。

2018の『マザーズ』は、若い母親・村上友を中心に展開する。子供の頃に母親に逃げられ、アル中の父親と暮らし、結婚はするが妊娠したことが解ると夫には逃げられ、再婚した夫は他人の子を育てる気がないと言い、早く養子に出せと急かす。自分で子供を育てたい気持ちはあるのだが、このままでは働けない。男は働きもせず、ふらりと帰ってきてはダラダラと過ごし、村上友が働くことを当たり前だと思っている。八方塞がりの状況を自分では抱えきれずに「スマイルベイビー」に相談をする。

何という典型的な設定か、とはじめは思った。ニュースで伝わる育児放棄の若い夫婦や、ドキュメンタリーで何度も観たような家族の暴力。シングルマザーのような生活は、片付かない部屋に少し派手な服、メイクだけは怠らないような、だらしない生活の風景がそこには伺い知れる。壁には塞がれた穴。水商売か風俗で知り合ったに違いない男は、だらしなく酒を飲み、暴力的な言葉を浴びせる。いかにも居そうな若いカップルが描かれていることに、僕は嫌悪感さえ覚えた。しかし、考えてみれば、どれだけのこうしたステレオタイプを見聞きしてきたことだろうか?と思う。いかにも育児放棄や虐待をしそうな男や女は、どうしてこうも似ているのだろうか? 彼女、彼らだけが招いたわけではない連続した不幸な家族関係が、あるいはそれを取り巻く社会環境が、福祉環境が、こうした抜け出せない連鎖を生んでいるのではないか? その中にいる人達は、いつでも同じような渦に巻き込まれる、よく似た境遇の人たちではないか? そう思った時に、こうした典型的な設定は、それが誰にでも心当たりがある情景だけに恐ろしくなる。「この女なら、相手の男がこれなら、こんなことしそうだな」と悲惨なニュースを見ながら言い捨ててはいなかったか?

村上友が生んだ子供は7ヶ月を超えているので、一般的にできるだけ早い時期に引き取りたいと望んでいる養子縁組の希望者とは、うまくマッチングしない。一方で足に障害があり、車椅子で生活をしている川畑健二と妻の真希は、不妊治療を続けているがうまくは行かず、産院で「スマイルベイビー」の活動を知らされ、養子を考えるようになる。車椅子の父親が養子を引き受けることができるのか? 子供が可愛そうな目に合わないか、など夫婦の不安もあり、なかなか踏み切れない。そんな時に2014年の『マザーズ』で描かれた岐阜のパン屋山瀬が、息子の就職の報告と御礼に「スマイルベイビー」を訪ねてくる。奥田はその後、車椅子の夫が養子縁組で子供を育てている家族を紹介し、その家族と接することで川畑は気持ちを決める。村上友は養子に出した後は二度と会うことはないと言い、7ヶ月を過ぎた悟を奥田を通じて川畑に託す。しばらくして友を訪ねた奥田は、スーパーの駐車場で車の整理をしている警備員姿の友に会う。友は奥田に、今の正直な気持ちを伝える。

「3人の母」とは、産みの母と育ての母、そして「スマイルベイビー」の奥田貴子のことだ。このシリーズでは3人の母を持つ子供が、何人も描かれてきた。谷口くんが描き続けるのは、典型的な境遇から抜け出していく母親と、それを支えていくあと二人の母親、そして家族の姿を問い続けることになる、3人の母を持つ「僕」の姿だ。

 

ドキュメンタリー版については2018年4月23日の深夜に日本テレビ系列のNNNドキュメントで『マザーズ 特定妊婦 オンナだけが悪いのか。』(55分枠 撮影:安川克己/P:板谷学 中京テレビ)が放送され、後日、録画を観ていた。中京テレビでは10月13日にも『マザーズ “縁組家族“ 君がくれた幸せ』が放送されたようだ。2011年のはじめての取材から続いている、引き取った家族の側の物語だという。東京にいると、このシリーズを見る機会は限られている。僕が観た『マザーズ』は「NPO:Babyぽけっと」の岡田卓子代表とスタッフの活動の記録であった。一軒家を三件運営して、妊娠してもまともな状況で出産できない女性や、出産後も保護が必要な母親(特定妊婦)を、「Babyぽけっと」で預かって共同生活をしている。いわゆる母子シェルター活動であった。生まれた子供を自分では育てる事ができない母親は、岡田さんを通じて「特別養子縁組」の手続きをする。引き取り手となる両親も、事情は理解していて、成長記録を実母に送ったり、育ての親との交流会も行われている。ここに来る母親は、未婚の母であったり、相手から暴力を受けたり、風俗で働いていたりと、多様ではあるがよく耳にするようなよく似た環境を経験している。つまり、全国的にこういうケースはとても良く似た環境で起こっているということが解る。

例えばたまたま『マザーズ』と同じ日の早朝に、テレビ朝日系列のテレメンタリーで放送された『ボンドの家〜女性保護シェルターの半年』(30分枠 D:押田幸/P:東卓男、新津聡子 テレビ朝日)でも、東京で「ボンドの家」を運営する橘ジュンさんの保護活動の記録が描かれていた。「ボンドの家」は、妊婦を対象としているわけではなく、様々な事情で家に帰ることができず、街を徘徊しているような女性から電話を受ける。一緒に食卓を囲みながら、彼女たちの話を聞き、自立への方法を一緒に探っている。

あるいはその翌週4月30日のNNNで放送されたのは、『ゆりかごから届く声〜赤ちゃんポスト11年〜』(D:吉村沙耶/P:大木真実、後藤宏一郎 熊本県民テレビ 30分枠)だった。日本で初めて、唯一の「赤ちゃんポスト・こうのとりのゆりかご」を設置した慈恵病院の11年後の現在を描いていた。ドイツの「ベビークラッペ」というシステムをモデルにしたというこの病院には、「乳児遺棄を助長する」など、非難も相次いだ。人目につかないように設置された「赤ちゃんポスト」は、そこに子供が置かれると瞬時にナースステーションに知らされ、速やかに保護される。手紙などが添えられていることもあるが、身元がわからないこともある。そもそもの設置の動機は、隠された妊娠と自宅出産の危険性から内密出産の相談を受けたことだった。命の危険は乳児だけではなく、かくして自宅出産を試みた母親にも及んでいた。番組の後半に、この病院では、かつてこのポストに子供を追いた母親が、後年自立して引き取りに来たという話も紹介されている。こうして録りためたドキュメンタリーを見ていて気がつくことは、女性ディレクターやカメラマンの活躍が、優れた取材を可能にしているということだ。デリケートな話題であるだけに、男性のスタッフでは尋ねにくいことや、撮影し難い状況もあるのだと思う。

ドキュメンタリーで知ることができるこうした活動は、その多くがNPOなどの民間の事業である。『ボンドの家』の中で、その理由が語られていたが、自治体が運営する同様の施設がないわけではないが、入所の手続きが多かったり、入所後の規則などが厳しかったりと、必要とする側の緊急性に対応できていないという。今すぐに連れてこないと危ない女性をそのまま帰す訳にはいかない、という橘さんの言葉が映像を見れば理解できる。当たり前のことだが、書類や数字ではわからない緊急で厳しい現実が、現在も進行している。

映像にできることは、限られているけれども、気づかないよりは気がついたほうがいいに決まっている小さな危機感を喚起するくらいのことはできる。

谷口くんが演出したドラマを観て、いくつかの映像が繋がった。

ありがとう谷口くん、本当に立派な仕事をしていると、ただの飲み友達の僕は誇らしく思います。

コメント
コメントする








 
Calendar
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< January 2019 >>
翻訳ツール
Facebook svp2ページ 更新情報
Selected Entries
Categories
Archives
Recent Comment
Recent Trackback
Recommend
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭
佐藤博昭、渾身の一冊です。個人映像の展開へのヒントになれば…。
Recommend
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力 (JUGEMレビュー »)
佐藤 忠男,吉岡 忍,森 まゆみ,池内 了,堀田 泰寛,小泉 修吉,矢野 和之,佐藤 博昭
Recommend
Recommend
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5)
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5) (JUGEMレビュー »)

佐藤博昭が「ビデオ・ジャーナリズムの現在」の項を担当しています。
Recommend
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭, 西村 智弘, 「Cine Lesson」編集部
SVP2を主催する佐藤博昭の共著本。
Links
Profile
Search this site.
Others
Mobile
qrcode
Powered by
30days Album
無料ブログ作成サービス JUGEM