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2018.11.16 Friday

厳しい労働環境を描いた映画なのだろうという勘違いは、心地よく裏切られた。

『世界で一番ゴッホを描いた男』

原題:China’s Van Goghs

監督:ユイ・ハイボー/キキ・ティンチー・ユイ

出演:趙 小勇(チャオ・シャオヨン) 2016年 中国・オランダ 84

 

この映画が面白いのは、工房の絵描きの親方が極めて真面目に複製画を制作している、その職人気質とゴッホへの敬意に素朴に感動するからだ。

 

予備知識も入れずに、スチルカットとタイトルから想像していたのは、贋作の組織的な制作と流通なのだろうか、という浅はかなものだった。『人間機械』でみたインドの染色工場のように、劣悪な労働環境と低賃金を告発するような映像が続くのではないかとも思った。そしてそれは心地よく裏切られるのだが、その心地よさの正体は、工房の親方の職人気質とゴッホへの純粋な敬意なのだと思う。

中国深圳市大芬(ダーフェン)は、今では観光地と知られるほどの世界最大の「油画村」だという。この事をそもそも知らなかった。そんな村があったのか、素朴に驚いた。

この街には約1万人の画工がいるらしい。しかし始まりは古いわけではなく、1989年香港の画商が20人の画工を連れてきたのが始まりらしい。

 

その中でもゴッホの複製画を専門としている工房の親方・趙 小勇(チャオ・シャオヨン)は、これまでに独学でゴッホの複製画を10万点以上制作したという。その制作は家族と職人たちで分業して行う工房スタイルで行われている。注文が入れば、膨大な枚数をそれぞれが仕上げる方法と、その下絵を描く者、黄色のパーツを塗り進める者などと、流れ作業での制作もあるようだ。親方は全体の仕上がりを管理しているし、まだ若い職人を「バランスが悪い。はじめからからやり直せ」と厳しく叱っている。毎月600〜700枚の複製画を作り、その多くはアムステルダムなどの土産物屋に輸出している。

 

何よりも感動的なのは、工房の親方が「本物のゴッホが見たい」と、アムステルダムへと向かうその旅のプロセスだ。ゴッホ美術館の前では自分が描いた油彩の複製画が売られている。もちろん卸値の何十倍の値段だ。土産物屋の店主は親方の一行を歓迎するが、親方は画廊で売られているものだと思いこんでいたので、少しがっかりする。それでも、自分の絵を前にした親方は、遠くアムステルダムの店で自分の絵が売られていることを少し誇りに思ったようだ。

そして、ゴッホ美術館では、初めて本物と対面し「色が違う、、、」などと呟く。その少ないコトバが、また切ないのだ。そしてゴッホの墓参りに行く。ここでの振る舞いは、すべてが師匠を敬う態度にほかならない。マニアでもコレクターでも絵画ファンでもない。10万枚も油絵で模写し続けた職人が、その本物を描いた人を敬っているのだ。そしてゴッホは「魂で描いていた」と、悟りのような言葉を口にする。

 

帰国後に工房の仲間や他の店主に語る土産話もいい。本物は何が違ったのかを本気で伝えているではないか。そして、禁断の「オリジナル」を描くことを決断する。複製画の職人ではなく、画家としての自分の絵を描きたいと願う親方の決断は美しい。

そして描き始めたオリジナルのモチーフは、お世話になった叔母の肖像画や生まれ育った路地の風景だった。

その画風が、ゴッホそのものであったことは言うまでもない。

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