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2018.11.14 Wednesday

映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観て、思わずこみ上げる感情は、きっと「Queen」が数多の「ロックバンド」ではなくて、紛れもなく「Queen」だったのだということを、あらためて思い知らされるからなのだと思う。

 

『ボヘミアン・ラプソディ』

原題:Bohemian Rhapsody

監督:ブライアン・シンガー

音楽プロデューサー:ブライアン・メイ ロジャー・テイラー

2018年 アメリカ 135

 

僕にとってのQueenは真似やコピーができるバンドではなかった。カラオケで「キラー・クイーン」を歌うことはあっても。

 

TOHOシネマズ日比谷のDolby ATMOSは、こういう映画のためにあるのではないかと思ってしまった。ラストのライブエイドのシーンは、思わず熱いものが込み上げる。それほど熱心なQueenファンでもなかったけれども、自分に起こった不思議な気持ちに、これは一体どうしたことかと思った。年を重ねれば涙もろくなるとはよく言われるが、どうやらそういうことではなさそうだ。何かムズムズするような、言葉にし難い不思議な感覚だった。ロック映画はたくさんある。1970年代に活躍したロックスターたちは、その生涯がドラマティックだったりすれば、映画の格好の材料になった。『ドアーズ』『ジャニス』も『ストーンズに消された男』もそうだし、早逝のスターたちは神話になった。もちろん、いくつものドキュメンタリー映画もある。この映画もそんな映画のひとつだったのか?

 

Queenを初めて聴いたのは多分中学1年の頃、次兄が持っていた『Sheer Heart Attack』だったと思う。「キラークイーン」を聴いた福岡の野球少年は、美しい高音のハーモニーが「ロック」というジャンルとは結びつかなかった。その頃、家にあったレコードはビートルズと井上陽水、トランペットを吹いていた次兄のチェイスだったか。もちろん「ブラス・ロック」などというコトバも知らない少年は、「黒い炎」で4チャンネルで小さなスピーカーから、グルグル回るように聞こえる音が素朴に好きだった。思えばこの頃、どれだけの「ロックバンド」が生まれたのだろう。そして、その中で、いくつもの「ロックバンド」らしからぬ特異なバンドが生まれていた。映画のセリフでもあったように「Queen」はロックバンドではなく「Queen」だった。

 

「ロック」が自由と同義だった頃、それはエンターティメント・ビジネスの最も期待されるジャンルだった。ロックは。冴えない若者が成功を手に入れる近道だったし、安易な縮小再生産が始まるのもその頃だった。パンクもそうだった。それでも3つのコードがあれば自分たちの歌を作り歌うことができた。勢いもロックと同義だったし、反体制とか反抗も、主張が稚拙であってもそれは紛れもなく若者の言葉だった。そしてそんな若者の音楽を同じ境遇の若者は歓迎した。ロックはクラブやライブハウスから大きなホールやスタジアムでかいさいされる巨大なイベントになっていった。

それでも、ロックは音楽だった。だから音が僕らを捉える。耳が痛くなるほどの爆音も、思想を反映したような複雑な変拍子も、それはロックであったし、「おれたちの音楽」だった。

 

Queenをそんなロックの中に組み込んでしまうのはどういう訳か躊躇する。簡単には真似できないような音楽が、ロックを纏っているようだった。もちろんビッグなバンドだったし、日本公演も大成功した。僕は一度も生では観ていない。好きなバンドではなかったけれども、ずっと並走していたようなバンドだった。フレディーが死んで、ポール・ロジャースが歌ったこともあった。でも、それはもうQueenではなかった。フレディーがQueenだったのか? そうかもしれないし、ブライアン・メイがギターを弾かないQueenも、多分、ジム・モリソンのいないドアーズみたいだったんだろう。

 

バンドってなんだろう? 子供みたいな疑問が頭を巡る。ビジネスでロックを演じることも才能だろうと、今のバンド達を見ていて思うことがある。ちょっと変わった、でも、それほど大きな逸脱ではない無難な抵抗を、ロックだと思い込ませるのも才能かもしれない。でも、そんな事をしたかった訳ではないのは、早逝のロッカーを見ていれば解る。彼らが身を滅ぼすほどに引き裂かれたのは、ロックという魔物がとてつもない許容力で彼らを包み、這い出すこともできないような足枷を誰もが嫌がり、それでも自分たちの「何か」を生み出すことを要求され、苦悩というにはあまりにもリスクの大きな苦難があり、あるものは死に、あるものは逃げ、あるものは無難な老後を目指した。僕らは何故、ロックに惹かれるのか?

そんな事を走馬灯のように思い巡らされる映画だった。

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