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2018.07.11 Wednesday

予告編を観て気になっていたこの映画は、観た後もずっと、何かが気になっている.

『軍中楽園』

監督・脚本:ニウ・チェンザー 編集協力:ホウ・シャオシェン  2014年 台湾 DCP 133分

 

『軍中楽園』といういかにも男性的なその名称が、戦時下の娼館であることは想像できたけれども、舞台が1969年というのを予告編では見落としていた。何かの理由があって娼館に勾留されていた女たちの凄惨な悲劇かとも思っていた。おそらく幾度も繰り返し戦争犯罪として報じられてきた旧日本軍の従軍慰安婦問題と重なり、予告編に現れる言葉に、反射的にストーリーを妄想していたのだろう。

 

予想は見事に裏切られた。

そして、観終わった後に不思議な爽快感を覚えたことが、自分に対して何故か不愉快になり、その理由が気になっていた。映画はとても美しい細部で溢れていた。困難な状況下での複雑なラブストーリーであり、映画の魅力を再発見したなどと言えば納得できただろうか? いや、そういう言葉の短絡が嫌だったのか? いや、この背景と設定で、純粋と不貞と暴力と理不尽が入り交じる聖的な喜劇に昇華させた映画としての力量に感心したのだろうか? いや、それでも、戦争=暴力装置としての重要な「部隊」である娼館が、「美しく」描かれていた細部への抵抗だろうか? 娼婦たちは皆、強かで、それぞれに秘密を抱え魅力的にさえ描かれている。バオタイとニーニーが娼館を抜け出し月下美人を見に行くというシーンも、この刹那的な純愛の結末を予見させながら、少し滑稽で楽しい。 そんな映画的な寓話にも、いつの間にかすんなりと納得させられている。この映画は、やはりとても良く出来ているのだ。 

 

1969年という時代に違和感を覚えたことは間違いない。台湾と中国の歴史を知らなさすぎた自分を恥じた。第二次大戦終了までの日本統治下や、その後の蒋介石の国民党軍に翻弄されるという常識的な知識だけはあったものの、その後に長く続いた中国との内戦状態の最先端が「金門島」であることは知らなかった。要塞化された金門島にある施設は、「戦後40年にわたり公然の秘密であった」と書かれている。我々が知る術はなかったのか? それにしても緊張しているの弛緩しているのかわからない小康状態のような金門島の描写は滑稽ですらある。映画の冒頭、体格はいいがおとなしそうな青年ルオ・バオタイは、友人と共に唐突にこの島に配属される。島の特殊部隊に配属され、厳しく理不尽な訓練が続いた様子が描かれる。老兵の隊長ラオジャンとの関係も、この時点では絶対的な服従でしか無い。しかし、滑稽なのはこの特殊部隊「龍海蛙人」の兵士が、なぜか赤い海パン一枚で銃弾ベルトを肩にかけて、街の中心部を闊歩する様子だ。誇りに思っているのかどうかはわからないが、その姿の滑稽さが喜劇を予見させる。ラオジャンが質屋で時計を換金するのを見て、バオタイは娼館の存在を知る。バオタイは泳げないために「龍海蛙人」から、「軍中特約茶室」(通称831)に配属される。831は電話番号からの由来らしい。配属とは言っても、仕事は娼館の管理人であり、兵役は特殊部隊の訓練からはずいぶんと隔たりがある。1969年当時の街や娼館の様子を忠実に再現したという背景は見応えがある。この「軍中特約茶室」は1992年まで実在したというのも驚きだった。

台湾が中華民国となり、徴兵制度は戦後に中国との緊張関係から1949年に法制化された。中国軍と対峙する最前線の金門島には、最大で10万人の兵士が配属されていたらしい。兵役は1年とあるが、この映画では、バオタイの従軍は数年間に及んでいる。除隊を申請しなければ、いくらでも延長できたのだろうか? 隊長ラオジャンは故郷をいつも気にしながら、831に意中の女がいるためか、ずいぶんと長い間この島に従軍しているようだ。そうした緩さが、凄惨な悲劇を生むことになるのだが、その事件も戦時下の狂気とは言い難い。娼館での日常は、軍の管轄下とはいえ、激しい暴力の支配下ではない。だから、思い通りにいかない軍人は、娼婦に翻弄される。

 

この映画が史実に忠実であったかどうかは、制作者の倫理の問題だと思う。事実をもとに検証され、選択され、排除され、誇張された独自のストーリーであったとしても、それは映画に委ねられた表現の範疇である。例えばニーニーは夫殺しの刑期が軽減されるという理由でこの娼館にいる志願者だと言える。こういう制度が本当にあったのだろうか? 他国の慰安所と比較して、この描かれた「緩さ」に苦言を呈することは意味がないだろう。豊かな映画体験であったことは間違いないが、後味の悪さはしばらく尾を引きそうだ。

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