沖縄の現代史を、まずは「面白い」から始めてもいい。カメジローは面白いのだ。
『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』
監督:佐古忠彦 撮影:福田安美 配給:彩プロ 著作・製作 TBSテレビ 2017年 107分
沖縄現代史の複雑さを改めて知る。「面白い」から始めてもいい。まずは知ること。
観終わった後には「痛快なカメジローの人物像」が何度も反復される気がした。佐古監督が「週刊金曜日(2017.8.25)」で言うように、現在のオール沖縄の熱気は、この映画で描かれる亀治郎の演説風景に近いかもしれない。「亀次郎さんが言っていたことの一つが『小異を捨てずに大同につく』でした(笑)。みんな考えは違っていても、ここぞという時には一つになろうぜ、と。まさに今が、そうなんだと思います。つまり決して『瀬長亀次郎=翁長雄志』ではないんですが、3年前の知事選(2014年11月)で、沖縄保革の構図が崩れた。その前の仲井眞弘多さんが13年12月に辺野古移設に向けた埋め立てを承認し、市民に怒りがあふれ、それが翌年秋の県知事選挙へつながっていった。このときの熱気あふれる『空気』を、私は現場で直接感じていました。」
沖縄が置かれた現在の状況は、これまで、「米軍の事故や暴行に抗議して、何回県民大会やっても、何も変わらない」「どうせ、日本政府が決めた通りなってしまう」という絶望的な諦念の意識から、「もう、我慢の限界を超えた」という大きな怒りのエネルギーに変わっているように思われる。それでも、相変わらずの無関心を装う本土の、同じ日本国民に対して、この映画は一つの道筋を示しているようのも思われる。亀治郎のようなリーダが必要だ、と。
沖縄については、映画や文献である程度のことは知っていたつもりだったけれども、瀬長亀次郎のことは知らなかった。恥ずかしい。瀬長亀次郎は戦中と戦後の米軍統治下での県民の自治を訴え、米軍傀儡の琉球政府にあって内部から抵抗した。映画でも使われた、1952年4月1日の写真は、抵抗の象徴として印象に残る。「琉球政府」の設立は、アメリカの占領政策の一環でもあり、傀儡政府の容認でもある。その式典の最後、宣誓文の読み上げの際に、最後尾の席で一人、起立も脱帽も拒んだ亀治郎の姿だ。「占領された市民は、占領軍に忠誠を誓うことを強制されない」(ハーグ陸戦条約の条文)を、法的な根拠に、米軍に対して忠誠を誓うどころか、演説では、「一粒の砂も米軍のものではない」と、市民を煽り、米軍を挑発した。復帰前の沖縄では共産党に党籍があることは隠して、返還前の沖縄立法議員や那覇市長に当選している。1950年代の米軍統治下の沖縄では、レッドパージを恐れて共産党籍を隠すことはあったであろうし、沖縄人民党も共産党との関係は強かったはずだ。それは、米軍にとっては公職追放の切り札であったし、逮捕・拘留の根拠でもあった。
1956年に那覇市長に出馬し、当選した後に、那覇市への水道供給を止められるなど、米軍の露骨な嫌がらせにあったエピソードは、亀治郎の政治的な力に対する恐れの現れだったのだろう。亀治郎を応援する市民が税金を収めに殺到し、納税率が97%に登ったというウソのようなエピソードも紹介されている。
佐古監督が語るように、亀治郎は対米軍という意味では「反体制」であり、左翼であるといえる。しかし、本土復帰や沖縄県民の自治を訴えた愛国者・愛郷者であり、保守的な政治家であったとも言える。対日本国的にはどうだったのか?1970年の国政参加選挙で当選以来、7期連続当選しているが、衆議院議員として日本共産党に所属し、党副委員長(1973年〜)などを歴任した。この頃の亀治郎に対する沖縄県民の評価には、もしかすると温度差があったのではないか? 政府自民党と対立するよりも、内部から沖縄の立場を好転させるという政策を望んだ人たちはいなかっただろうか? 現在も続く共産党へのアレルギーは、当時の沖縄ではどうだったのだろうか? 沖縄選出の議員や県知事が、基地負担に対する迷惑料のような「沖縄振興予算」を引き出した功罪は、経済的な自立の足枷になっていた事実もある。沖縄現代史に詳しくないので、そのあたりは自分への課題とするしかない。
沖縄には、仕事で頻繁に行った時期があったが、謝花昇の話題になったことはあったが、瀬長亀次郎のことを聞いたことが無い。少なくとも記憶にはなかった。謝花は、沖縄初の農学士で明治の自由民権運動に刺激を受けた社会運動家、沖縄の農政改革運動に関わった。沖縄県庁在職時には奈良原繁県知事と対立し、沖縄を追われた謝花は不遇な晩年を送り43歳で狂死したと言われている。謝花昇に続いて、瀬長亀治郎の名前を覚えた。
瀬長亀次郎のような強い指導者を望むのは、沖縄だけではない。それは、佐古監督のメッセージでもあると思う。真に強い指導者とは誰か? 自分よりも強い物の側に立ち、富める者の主張を優先し、弱者の言葉を切り捨て、学問を軽視し、保身のために解散選挙を強行するような輩でないことだけは確かだ。
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