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2017.07.12 Wednesday

「写狂老人A」はやっぱり凄かった

 

『写狂老人A 荒木経惟』

2017年7月11日 東京オペラシティー・アートギャラリー

 

『写狂老人A』を観てきた。

熱心に追いかけてきた人ではないけれども、この人の写真はずっと好きだ。77歳の写真はますます猥褻で、ますますセンチメンタルで、どこまでも「写真集」であると思った。単体で数枚を見るような人ではなくて、あくまで膨大な「集」として、その何か集積を圧倒的な空間で見せる人だと思う。

今回は新作をゼラチン・シルバープリントで展示している。ビデオプロジェクターによるスライドショーのような展示もあるのだが、やはり圧巻は白黒写真の集積だと思う。いわゆるモノクロ写真は、印画紙で見せるという当たり前の手法なのだが、今ではかえってコストも掛かる。白黒の写真は、やっぱり印画紙がいいな、などと素直に感心してしまう。

入り口からすぐの展示は「大光画」で140×100cmのサイズの裸が並ぶ。「週刊大衆」の「人妻エロス」のシリーズだから、圧倒的に猥褻だ。美しいとはとても思われない、ダイナミックなスタイルの女性も、老いた女性の裸体も、誇らしげに「エロス」を突きつけてくる。このサイズでこれだけの数(50点)を見せられると、もはや、「これにエロスを感じないお前はおかしいのだ」と言われているようだ。

 

次の部屋は「空百景」と「花百景」で45.7×56cmの写真が点ずつ壁面の上までを覆っている。一転して美しいのだけど、それは単体としての写真の美しさではなくて、この展示空間の壁面の美しさだと思う。見上げるように100枚の空を見、100枚の花に目を凝らす。

 

「写狂老人日記」は13×18cmの写真が687枚。写真がスタイルでなく、本気で日記と化していることがわかる。すべての写真は「'17.7.7」の日付があるが、少し見ていくと、冬の風景もあることに気が付き、この日付の意味を考える。妻、陽子さんとの結婚記念日であることを、受付でもらった作品リストを読んで知る。それにしても、それぞれの部屋にそれぞれのサイズで、それぞれの空間に適した(むしろ過剰な)展示数で飾られている写真は、写真の本来の役割を考えさせられる。ここにある687枚はこのサイズで壁に貼られてこそ写真になる。

数週間前に見た写真美術館の写真展では、どう考えてこのサイズにしても意味が無いだろうと思う写真が、「芸術」として展示されていた。平成の写真の閉塞感しか感じなかった展覧会だったが、そこにあったのは、写真が額装された「作品」と化した醜い姿だった。

 

この人の写真は、絶対に「ゲイジュツ」などではないところがやはり凄い。明らかに猥褻だし、どう見ても日記だし、毎日の窓越しの風景だ。『花百景』は唯一、「ゲイジュツ」に歩み寄ろうとしているけれども、そこになるのは、圧倒的な「花の塊」だ。

また、「切実」に(ripping truth 切り刻まれた真実)という英語タイトルがあてられていて、このセンスはとてもいいと思った。

出口にまとめられた年表と、写真集の出版数を見ながら、呆然とする。この元気な写狂老人が死んだら、昭和の写真は、終わる気がした。

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