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2016.04.02 Saturday

こうした行為を、美術を志す学生に「正しく」伝えるのは、難しいだろうな。

   
『BANKSY Does New York
監督:クリス・モーカーベル 2014年 アメリカ 81
http://www.uplink.co.jp/banksydoesny/

大規模ないたずらが、1
ヶ月間New Yorkを席巻する。そのさまを見ながら、創作物の価値とか意味とか、活動の意義などという、とても「まっとうなこと」を考えさせられた。
 
ひとことで言えば「大規模ないたずら」だし、法的には「器物損壊」などの犯罪行為にあたる。しかしそれは、ぎりぎりの表現行為であるとも言えるし、アクティビズムの一環であるとも言える。グラフィティー・アートという呼称で、現代美術の文脈に回収しようとする画商や評論家たちもいる。80年代のグラフィティー・アートの寵児、ジャン・ミッシェル・バスキアやキース・ヘリングと比較する人もいるし、その後のグラフィティー・アートの潮流を丁寧に解説している文章も読んでみた。2016年3月25日発行の「週刊金曜日」も、この映画をめぐって特集が組まれている。
http://www.kinyobi.co.jp/tokushu/001960.php
 
人騒がせな行為であることに変わりはない。そして、それはとても愉快だ。この映画の観客は、たぶん、バンクシーと同じ視点からN.Yの狂騒を観ているけれども、「馬鹿だな〜」などと客席で安心している自分は、いつでも「馬鹿の側」に引き込まれる可能性があって、とても不安になる。実際に、『EXIT THOUGH THE GIFT SHOP』(2010年)のなかで、何の才能もないのに「アーティスト」になってしまったミスター・ブレインウォッシュは、バンクシーによる展覧会の告知文が火種になって、話題のアーティストになった。そこでターゲットにしていたのは「現代アート」ビジネスの仕組みだった。話題を作ればアートになる。時代の寵児が推薦すればゴミのような創作物が何万ドルで売れる。根拠もなく時代を先取りしていると思い込んでいる危うい自分たちも、その作品や作者を褒めそやす側になるかもしれない。そうした狂ったシステムは、我々の日常に蔓延している。
 
それにしても、バンクシーの魅力がその創作物の「切れ味」であることは、これまでのグラフィティーとは一線を画す。政治的なメッセージや、不覚にも感動してしまいそうな動画は、その切れ味とともに記憶される。バンクシーのシンボルのように商品化された『Something In The Air』では、火炎瓶か石を持っていそうな若者が、花束を放る様子が描かれ、『Napalm』では、最も有名な戦場写真の「全裸で走るベトナム人少女」がミッキー・マウスとドナルド・マクドナルドに手を引かれている。こうした皮肉や風刺は、切れ味がなければ「すべる」だけだし、表現手法や「場所」の選択も大きく左右する。人騒がせといえば、2003年にパレスチナの隔離壁に描いた一連の作品は、その「場所」との関連が、即ち作品の意味であったといえるだろう。『BANKSY Does New York』に出てくるアートディラーは、その壁の一部を切り取ってわざわざ自分のギャラリーに運んできたという。「場所」から切り離されても、バンクシーの作品として数万ドルの価値を産んでしまう「バカバカしさ」がそこでは示されていた。

作品の価値という意味で傑作なのは、「10月13日」という日付の「行為」だろう。露天商の男を雇って自分のスプレー画を60ドルで売るというものだ。バンクシーの作品のアイコンとして有名なそれらは、見るからに模造品のように露店に並べられているが、本人のサインもある「正規品」が並んでいる。それがバンクシーのアイコンであるかどうか知ってか知らずか、たまたま購入した客は、バンクシーがその「行為」を自分の仕業だと認めた瞬間に、露天のスプレー画が30万ドルの「美術品」になるという事態をしる。バンクシーが設置した作品を盗むものもいる。もともと不法投棄だからそれを外して持ち帰ろうとする者が窃盗犯かどうか疑わしい。「器物損壊」を受けた側のオーナーや店主は、そのドアやシャッターを切り外して、大切に保存するか売り払うかする。「宝物を書きつける犯罪行為」とは、グラフィティー・アートの違法性も揺るがす。そして、それらが大切にされようが、持ち去られようが、上書きされようが、消されようが、当の仕掛け人は感知しないという約束事もある。膨れ上がる作品の値段も、匿名の作者とは無関係の取引であるようだ。N.Yの警察はバンクシーを逮捕するために奔走するのだが、周到に計画された組織犯罪であるため、ついに逮捕することも、目撃することもでない。この匿名であることを維持するエネルギーは、実は相当なものだろうし、多数の協力者(共犯者)がいるはずで、映画の中でも指摘されていた「匿名のブランド」を保つためには、組織力も必要だ。そうした大きな「匿名性の物語」を、どこまで拡大していくのだろうか。
 
こうした行為を、美術を志す学生に「正しく」伝えるのは、難しいだろうな。


 
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