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2015.08.02 Sunday

日曜日の早朝に『ジョン・ラーベ』を観ること

 

『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜  JOHN RABE

監督:フロリアン・ガレンベルガー

出演:ウイリッヒ・トゥクル チャン・チンチュー 香川照之 柄本明 杉本哲太 AKIRA

2009年 ドイツ・フランス・中国 134分  http://johnrabe.jp


 82日(日曜日)の早朝に目が覚め、買っておいた『ジョン・ラーベ』を観た。こういう日曜日の始まりもなかなかすごい、と自分で思う。観てよかったし、僕は普段はあまり他の人に「観るべき」などと言わないけれども、虐殺そのものが事実に反するなどという見解を聞くと、多くの日本人が観て、この映画を材料に様々な場で論議をすればいいと思う。数万人とか30万人とかいう数字ではなく、映像からは多くの「ひと」の顔や姿を想像できるし、ひとりひとりの事情も見えてくる。数万や30万とは「ひとの累計」であって、単なるデータではない。

 僕は週刊金曜日に連載されている辺見庸の『1937』をずっと読んでいる。2週前からは辺見氏の父・和郎氏が中国から復員して10年後に石巻新聞・夕刊に連載された『さらば蘇州よ〜わが二等兵日記』がとりあげられている。復員後に石巻新聞の記者になった父の従軍日記を、これまで正視してこなかったという。父親が中国で何を見て、何をしてきたか? それをどのように記述しているのか? 辺見の父親への問いは厳しく悲しい。日本兵による記述を合わせて知ると、いっそう深い理解ができる。

 2009年に制作された『ジョン・ラーベ』は、公式HPを見ると、これまではほぼ自主上映で公開されている。今後の劇場公開は僅かな情報しかない。劇場の側からすれば、噂を聞きつけた(映画を見ないで)街宣車に抗議や妨害をされたらたまらん、ということだろう。それは理解できる。これまでも『靖国』をめぐって2008年の公開時に上映中止騒動が起こっている。あの手の団体は理屈では動いていないので、映画の中身や表現は関係ないからもっと困る。

 DVDに入っている冊子を読むと、史実とは違う箇所が指摘してある。こうした違いは映画の脚本上の問題であるが、史実を大きく変えない限りは許容範囲であろうと思うし、134分で描ける「ものがたり」にするわけだから、史実の解釈と再構成は表現の重要な要素だろう。映画では日記に基づき193711月末から1225日(クリスマス)あたりまでが描かれているが、ジョン・ラーベの日記は9月から翌年2月までが語られているそうだ。妻、ドーラとの劇的な別れの場面があるが、実際には既に南京を離れていて、ラーベは単身で生活していたという。

 おそらく問題視されるとすれば、朝香宮鳩彦(香川照之)の描き方だったのだろう。ラーベの日記でも、朝香宮との面識は書かれていなかったようだ。冊子には戦後の米軍による朝香宮への尋問も引かれており、映画のように公式な面談や朝香宮への直接抗議の場、安全区閉鎖を強行しようとする日本軍に射撃命令を下す朝香宮と対峙するラーベという事実はなかったようだ。朝香宮が捕虜の中国兵を殲滅するように命じるシーンもあるが、尋問によれば捕虜は労役につかせ、虐殺の事実を知らなかったと証言している。こうした描き方を瑣末な改編と見るか、表現上の演出のひとつと理解するか、重大な悪意と解釈するのかは観た者の判断だろう。

 劇映画である以上、事実に反することはある。古くは本多勝一が『ディア・ハンター』の監督マイケル・チミノに手紙を書き、北の兵士が捕虜を使ったロシアン・ルーレットしていたという事実はないと指摘し、蓮實重彦は戦争映画そのものの虚構を前提に反論していた。

 この映画をもしも日本政府が政治的に問題視するとすれば、政府の態度を批判した箇所と件の数字の問題であろう。映画のラストでは次のような記述がある。「南京安全区のおかげで20万人以上が虐殺を逃れた それでも膨大な数の犠牲者が出た 統計調査(字幕では単にCensuses)によると死者は30万人を超えるという 今日に至るまで日本政府は 公式に南京大虐殺(字幕ではThe Dimension of the Rape of Nanking)の被害の大きさを認めようとしない」という記述であろう。ここではRape of Nankingの表記を採用している。Rapeは強姦・強奪・破壊を合わせた意味であろうけれども、虐殺(slaugtermassacre)は選ばれていない。

 この映画が日本ではほとんど公開されなかったし、これからも公開には困難があるだろう。文科省が後援してもいいくらいだと思うけれどもありえないだろう。ことによると会場を借りることも難しいかもしれない。見せないようにするという政治的な介入はないにしても、2009年よりももっと困難な時期かもしれない。

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