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2015.05.30 Saturday

10代だけではなく50代の僕も心あたりがある

 

10代からの情報キャッチボール入門』 下村健一

岩波書店 2015424日 発行


10代からの〜」という本書は50代の僕にも思い当たることがずいぶんとあり、一気に読んでしまった。僕が担当している映像の授業の冒頭でも本書を紹介した。ある大学では、受講者が少人数なので、現物を授業時間に回して見てもらっていた。「知りたくもない情報まで見れてしまうSNSにここ最近うんざりするばかりで、スマホを投げたい気分になることもありました。この小さな画面にとらわれていると、ある意味盲目になるのだなと。」とは、ある学生のコメントだった。20代でも30代でもSNSの取り扱いには苦労している人は多いだろう。むしろ自制して上手に付き合っている人のほうが少ないかもしれない。

 

情報キャッチボールのグローブやバットに相当するのはスマホで、ボールはLineやツイッター、フェイス・ブックといったSNSのためのアプリケーションから投げ込まれてくる。そして同じ方法を使って投げ返す。キャッチボールは相手の立ち位置と距離を確認して、そこに届くように投げるけれども、情報というボールは大きさもスピードも数もさまざまだし、受け取る相手も無数に広がるし、投げてくる人も時には誰だかわからない。どこから飛んでくるのかさえわからない。硬いのか柔らかいのか、本物か偽物かさえ解らない。そんなボールを受け取って投げ返すには、神業のような技術が必要だと思ってしまう。

 

もちろん本書は、スマホ・ゼロを提唱しているわけではない。これほど複雑に見える情報のキャッチボールを、ひとつひとつ段階的に丁寧に考えていけば、少しずつ相手の立場が見えてくるし、ボールの行方や数も限定的になってくる。手にしている道具ときちんと向き合って、キャッチボールが少しでも上手になるための手引である。とっさに反応する前に、少し考える事、これだけでもスッテプがひとつ上がることを伝えている。子供の頃「食事の仕方」や「道の歩き方」を身につけたように、情報のキャッチボールも「何でも口に入れてはいけない」「道に飛び出してはいけない」ということから始まる。

 

僕はこの手のツールは、FBだけを使っているが、自分の意見を投稿したり、他の人の意見にコメントしたりしてから「しまった」と思ったことが何度かある。「これを見て気を悪くしたんじゃないか」とか、「余計なことを書いたために、都合の悪いことが他の人にも知られてしまったかな」などと後悔して、投稿やコメントを削除したりしたこともある。50代でもそういう失敗はあるから、多感な時期にたくさんの言葉をやりとりしている10代ならば、そのリスクも大きいはずだ。

 

本書は「君は、〜」という問いかけで進行する。もしも君がLineでこんなメッセージを受け取ったら? という一貫したスタイルはとてもわかりやすく身近な問題提起だと感じる。事実、身近に幾つもの似たような問題が発生している。下村さんは、本人が事実誤認の被害者になってケースをまず紹介している。「ある市議のブログに書かれた下村の『正体』」の項では、「ここでは書けないような破廉恥事件」の当事者にされ、「愛人に訴えられ」「長期謹慎処分を受けていたイメージが、フラッシュバックするのです。」と書かれたことを例示する。テレビ番組で性犯罪被害者の裁判について、下村さんの取材が放送された1時間後に、それを見た市議が下村さんへの不信感を覚えて自分のブログに書き込んだそうだ。市議のコメントに対する読者からの疑問の提示、それに対する市議の書き込み、さらに反省と謝罪の書き込み、を時系列で紹介する。しかし、反省や謝罪があったからといって一見落着ではなくて、謝罪までの経緯をすべての人がたどったわけではないことも付け加えている。こうした丁寧な例示は、次項の「情報をしっかり受け取るための4つのギモン」、「情報をしっかり届けるための4つのジモン」を説明するための具体的な材料になっている。

 

若い人がSNSとの付き合い方に悩んだり、友人関係や家族関係でトラブルを抱えていたりしていたら、ぜひ読んでほしいと思う。気持ちが少し楽になって、次の情報が届く時の心構えになるだろうし、自分が何かを書こうとした時にその言葉が届いた後のことを想像できるようになるだろう。そしてこれは若い人だけの問題ではないな。こうして書いている時に、422日に爆発事故があった「三井化学大竹工場で劣化ウラン弾の弾頭を製造して、米軍海兵隊岩国基地に供給している」というFBの投稿があった。投稿者は「未確認の情報だけれども、記事ネタとして」と断り書きをしている。「本当かな? でも、立地的にもありえそうだ。」と思ってしまう記事だ。今も、次々にこうした情報やコメントがが届いている。

この本は、5月23日に「NPO・市民がつくるTVF」の年次総会が行われた時、ご本人から頂戴した。もちろん頂戴したから紹介しているわけではない。本当にわかりやすくて誰かに教えたくなった。

下村さん、ためになる本をありがとうございました。

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