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2014.02.07 Friday

「にぎやかな過疎」を僅かな希望にはしたくない

 『にぎやかな過疎 限界集落と移住者たちの7年間』

ディレクター・ナレーター:中崎清栄 2013年 テレビ金沢 49

2014117日 NNNドキュメント

http://www.ntv.co.jp/document/back/201401.html

 この番組を見る1週間ほど前の日曜日だっただろうか、「地方の時代映像祭」のシンポジウムがNHKETVで放送されていた。その中でこの『にぎやかな過疎』を制作した中崎清栄さんが、自分の制作スタイルの話をしていた。テレビ金沢でドキュメンタリー制作を続ける中崎さんは、散歩をするようにして番組になるかもしれない種を探すのだという。まずは話をすること。話を聞き続けることで、その地域の問題や課題や、愉快な出来事に触れることが出来るのだという。もちろん、こうしたスタイルが許される環境は、一般的ではないだろう。それでも、地方のテレビ局が長期に渡る取材を続け、良質な映像を撮ることが出来る要因のひとつは、しっかりと話を聞く覚悟と余裕であるはずだ。この番組は7年間も話を聴き続けていた成果なのだと思う。率直にいって、とてもいい。絶望的な町が僅かな希望にウキウキするようなさまが微笑ましい。老人たちの素直ではないけれど親切なおせっかいが、前近代的でとても懐かしい気がする。こうした風習を嫌って、若者は殺伐とした都市部に出ていったのだろう。それは全国各地で起こったはずだ。

  27世帯が暮らす石川県羽咋(はくい)市菅池(すがいけ)町は、住民の半数以上が65歳以上の限界集落である。市は過疎化対策として、若い移住者を呼びこむ方策を考えた。HPなどで告知し、ひとりの移住希望者が大阪からやって来る。屋後浩幸さん(32才)は、この町で有機農業を始めたいと思っていた。農業経験もあり、志も高い若者だが、町の長老たちは警戒感を持っている。よそ者の侵入を拒んできた土地柄なのか、町民の代表が移住を許可するかどうかを判断するための面通しを行う。この事自体が、すでに陰風陋習と言われかねないようなことだが、屋後さんは老人たちに自分の希望を伝える。町民たちは過疎化対策への協力もあって、移住を認める。

 面白いのは、屋後さんが徹底して有機農法にこだわるところだ。漁港から魚のあらをもらい、発酵肥料を作ろうとするが強烈な匂いが周囲にあふれる。たまりかねた住民がやって来るのだが、屋後さんもひょうひょうとして、肥料の説明をして彼らをかわす。農家は農薬を勧めたりするが、肥料に使う「油かす」も遺伝子組み換えがある可能性があるので、使うのは嫌だという。この潔癖ぶりは、おそらくこの町で住み続けた力になったのだろう。やがて、屋後さんの家には留守中に様々な「もの」が置かれるようになる。近所の人が届けたおすそ分けだ。野菜だったり、米だったり、時には市販のカレー・ルーの箱だったりする。なんとか気持ちを伝えようとしているのだろうか? そんな慎ましさが微笑ましい。

 農産品の直売店での販売を始めるが、有機農法でコストが掛かり、値段を割り出すと他のものよりも高い。当然売れない。屋後さんはHPなどを使って少しずつ知名度を挙げていく。農産物の収入が8万だという。この町の第一居住者は農家カフェを営む武藤さんで、彼はすでに安定した収入を得ている。屋後さんの農業は虫の被害などのリスクも高く安定しないのだが、少なくとも武藤さんのような理解者は近くにいる。やがて新たな移住希望者が現れる。家族での移住を希望している枡田さんには小さな子供もいる。元々27世帯だったから、子供が来るだけでも限界集落は活気づくのだ。6年目には途絶えていた「獅子舞」も復活させて、屋後さんも稽古に励む。武藤さんの娘の入学式という節目もとてもいい。子供がいなくなった町は、こんな日常的な行事でもお祭りのように活気づくのだな、と微笑ましかった。

 番組では収入が150万円までになった屋後さんや、ケーキの販売を始める枡田さんたちの、いわば成功例としての話で終わっている。新規就農がどこでも成功しているわけではないし、ひどい前例を残したために、後からくる者が警戒されるという事例も各地である。それでもこの成功例を伝えたいと切に思う。殺伐とした報道や記録映像が多い中で、何しろ気持ちいの良い事例なのだ。映像に現れる関係を気持ちのいいものにしているのは、もちろん中崎さんのゆったりとしたナレーションであり、言葉に現れる人柄である。

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