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2013.09.15 Sunday

日本人の土着の精神性に、つい嬉しくなる『葬式』

 

『葬式 あの世への民俗』 須藤功 青弓社

1996319日 初版発行 19979114

 

タイトルが持つ一般的な訴求力という意味では、最低ランクの書名だと思うけれども、この類の本を読むのが好きだ。もちろん「葬式」の段取りやマナーを記した実用書ではない。映画『お葬式』のような、現代社会との奇妙なズレをコミカルに描いたエッセイでもない。とても真面目な、ためになる本だった。何がタメになるのかは解らない。だけど、読後感がとても充実していた。民俗学の本というよりは、姫田忠義さんや松川八洲雄さんの記録映画を観たあとのような気持ちになった。

 

日本の習俗をめぐる民俗学では、柳田国男や折口信夫、あるいは宮田登や網野善彦といった学術的な範疇の周囲に、より、民衆に寄り添った視点で、様々な儀式や慣習を見つめたものがある。宮本常一の農・漁村を調査したフィールドワークや、赤松啓介による「性風俗・風習」や「非常民」の生活に着眼したもの、さらには本書のように「葬式」や「盆踊り」「祭り」「神事」など、ある特別な儀式に焦点をあてたものがある。

 

著者の須藤功は写真家であり、著書は、日本各地の様々な儀式や生活様式を、その詳細な記述と写真で構成したドキュメントが多い。本書『葬式 あの世への民俗』でも、「まえがき」に記述の意図が記されている。現代の葬儀屋による葬式ではなく、日本の古くからの死者への考え方を残している葬式に着眼した、と。葬儀屋が葬儀を取り仕切るようになるまでは、各地で同じように、葬式組や町内組、隣組によって、その土地の独自の風習を反映した葬式が集落ごとに行なわれていた。それらはもちろん、担当者にとっては大きな負担でもあるから、現在のような葬儀屋の仕事はありがたい。しかし、死者をどのように生活に位置づけ、先祖に遡って弔い続けるのかといった精神的な継承は、概ねそうした近隣の人達による具体的な体験によってなされていた。

 

冒頭の章では「村人の手になる雪国の葬式」として、新潟県山古志村で遭遇した事故とその後の村人の対応が記述されている。診療所の雪上車が来るまで、雪掘りで屋根から落下した人の耳元で「オーイ、オーイ」と叫び続ける人達。その後、遺体とともにすごす家族、立棺での納棺、野辺送りの道順とその意味、埋葬のしきたりなどが写真と共に詳細に記述されている。続く「葬式のしきたりお国風」では、アイヌ・二風谷の死装束と埋葬、岩手県前沢町の夏の葬式では、親族が履物に白紙を結ぶ「シビトゾウリ」の習慣、秋田県鳥海町での白い着物の正装、あるいは宮崎県西都市銀鏡の神葬の様子など、全国の独自の習慣が記されている。

 

「友引が大安につぐ佳き日」という項も興味深かった。現代では「友引」に葬式を出さないが、後に字面でそうなった後付の慣習であるらしい。その部分を引いてみると、以下のように書かれている。

「友引は暦注六曜にある。先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の六つで、六輝ともいわれる。六曜は十四世紀ごろ中国から日本に伝わった。当初は、大安・留連・速喜・赤口・将吉・空亡というものだった。これが国内で名称も順番も変化し、現在の形に近いものになるのは亨保(17161736)のころ、広まるのは天保(18301844)のころからといわれる。

 現在の形に近いというのは、全く同じではないということである。たとえば仏滅は「物滅」とも書き、仏の入寂とは全く無関係だった。

 六曜の解釈にしても、時刻の吉凶占いにかぎられていた。先勝は午前が吉、先負は午後が吉、その間にはさまった友引は、「相打ち友引とて勝負なし」といい、境目の正午だけが凶で午前午後は吉とするものだった。」とあり、大安に続く佳き日で、葬式とも関係がなかったそうだ。また、地方によっては干支による忌避もあるという。近畿地方では丑や卯の日には葬式を出さない地域があるという。「ウカサナル」「ウガサネ」という重なりを嫌ったそうだ。

 

賑やかな沖縄の葬儀も楽しく描写されているし、埼玉県秩父市久那では「ジャランポン祭り」という楽しい葬式祭りがあるという。死者役の人が死装束を付けられ、寺での読経の最中に突然に鉦や太鼓が鳴り響き、死者が復活して賑やかにみんなで行列をして神社に向かうというものだ。

読後に豊かな気持ちになるというのは、こういう日本の精神性がとても微笑ましく感じたからだろう。

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