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2013.08.12 Monday

「いい映画」ってなんだろうと、あらためて考えた。

 『タリウム少女の毒殺日記』
監督・脚本・編集:土屋豊 撮影:飯塚諒 
出演:倉持由香 渡辺真起子 古館寛治 Takahashi 
2012年 HD 82分

渋谷駅を降りて、狂った暑さと人混みを歩き始める。既に帰りたくなった。この街には映画を見る時くらいしか用がない。それにしても暑い。そして、雲行きが怪しくなってきた。やがて豪雨がやって来るんだろうな、などとぼんやりと考えていた。

監督の土屋豊さんの映像を初めて観たのは、90年頃だ。幾つかの短編を見ていた。その後の長編ドキュメンタリー『あなたは天皇の戦争責についてどう思いますか?』と(97年)『新しい神様』(99年)を見て、この人はこうしてドキュメンタリーを作っていくのだろうな、と思っていた。その頃、「VIDEO ACT!」の上映会やライブトークなどにも出かけた。そうか、ビデオアクティビズムという方向が、彼にはとても似合っているな、と思っていた。ところが『PEEP”TV”SHOW』(03年)は見事な劇映画だった。飄々としてヒトの期待を裏切るのがうまい人だ。その裏切り方が見事だった。『タリウム少女の毒殺日記』の試写の案内を頂いた時、また何か裏切りを企んでいるに違いない、と思っていた。そして、今度は見事に裏切らなかった。

笑えない、泣けない、いい話でもない、破壊も爆発もない、エロも恐怖もない。現在の一般的な劇映画に求められそうな要素が何ひとつない。しかし、この瞬間にも進行している後味の悪い現実がある。この後味の悪さはドキュメンタリー映画と似ている。そして逆説的な「希望」がある。少女の夢は「光ること」だ。

出来れば目を背けたい。知らなかったことにしたい。そんな「今」だけがこの映画にはある。この映画のことを誰かと話したい、と思った。見終わった後に、すぐに何かを言えるような映画ではなかったけれど、エンドロールを見ながら様々なことを反芻した。今観たものが何だったのかを考えた。そして誰かと何を話そうかと考えた。

 『タリウム少女の毒殺日記』は『PEEP”TV”SHOW』の次の世界だと、土屋さんが話していた。彼の映画には複数の視線・カメラが描かれる。この映画が撮られているカメラ、少女が観察日記をアップするためのスマートホンのカメラ、学校でいじめの現場が撮影される誰かのカメラ、小学生がポイントを通過するたびに母親に送られる情報とそれを撮影している監視カメラ、マンションの防犯カメラ、ドアホンに連動したカメラ、パソコンのウインドウもまた、カメラでもある。『PEEP”TV”SHOW』でもそうだった。複数の視線は映画に乱入する。そのたびに映画は、技術的に安定したプロの視線ではなくなる。不安定な画面と聞きづらい音声は観る者を不安にさせる。暗い部屋で「映画」を見ていたはずなのに、さっきまで歩いていた渋谷の街に引き戻されるような感覚がある。あるいは不意にパソコンの向こう側の無数のヒトの視線を思う。

自分も含めて「観察するぞ!」とつぶやく少女は、何を見ていたんだろうか? それは、虐待の経験者が語る「ここにいる自分は本当の自分じゃあないんだ」と思い込もうとする心情と、似ているようで違うのだなと思った。何もかもがプログラムされたものだと達観した時、その痛みも、屈辱も、組み込まれた心情なのだろうか? 肉体を改造すればそれはコントロールできるようになるのだろうか? そういえばしばらく前に、義足や義手がものに触れた感覚をパルスで脳に送るという話を聞いたことがある。熱いとか冷たいとか痛いとかをパルスにして送る。痛みを感じる義手が、あるいは、坂道や路面の凸凹の情報を伝える義足が既に作られているという話だった。そのためには手や足に伝達のためのチップを埋める。同様に視覚データを直接脳に送るという話を聞いたことがある。全盲の人が「見える」ようになるのだと。こんなことを、いろいろと考えていた。

上映後に土屋さんに挨拶をすることができた。相変わらず細い体つきだ。こんな映画を作っていたら、きっと太れないだろうな。ありがとう、土屋さん。色んなことを考えさせる映画は、とても「いい映画」なのだと思います。そんな映画が少なくなった。

雨は思ったほどでもなく、渋谷の街はまた狂ったような暑さになった。

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