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2011.07.09 Saturday

愚行はいつまで続くのだろうか?

『宝子たち 胎児性水俣病に学んだ50年』 原田正純 著

 福島原発の事故以来、水俣で起こったことと、これから起こるであろうことが比較されることがある。この本は2009年の発行でありながら、読み続けていくうちに、福島の原発をめぐる今後が見えてくる。
 事故発生からこれまでの東電と政府の対応や、事故に関する事実やデータの隠蔽、今後必ず現れる補償問題と、その認定制度の制定、その結果、将来にわたって続くであろう補償金の差別は、まさに水俣病の経験を繰り返すことになりそうだ。『百年の愚行』(2002年)という本があるが、世界中で繰り返された人類の愚行が100枚の写真で紹介されている。戦争以外で日本が紹介されているのは「水俣」だけだ。しかし、今ならば、チェルノブイリとスリーマイルと併せて「フクシマ」が載ることだろう。

 原田正純さんとは一度だけお会いして、ほんの少しだけご挨拶をした。チッソ水俣工場の第一組合が自主的に解散式を行った日だった。第一組合最後の書記長だった叔父が司会を務めた式だった。原田さんの柔和な笑顔はいくつもの記録映像で観るそれと少しも違わなかった。

 『宝子たち』では水俣での出来事を中心に、カネミ油症、ベトナムの枯葉剤、ジャカルタの環境汚染、原爆の体内被曝など、人類が出会った環境汚染と人体への被害が、原田さんのフィールドワークでつながっていく。「現場を歩く医療」を50年にわたって実践した医者の現場報告でもある。
 第六章「水俣学と環境倫理」の項は、今、フクシマを経験している我々への提言として読める。「毒は薄めれば、毒でなくなる」という考えは自然界の機能の一面を強調している。自然界には「濃縮と希釈」という二つの機能が存在する。「人類は己に都合のいい機能だけを自らの都合のいいように利用してきたのです。」と原田さんは言う。福島で続く「水」の汚染は、まさにこうした驕りである。
 「胎児性水俣病」は毒が胎盤を通過したという、人類史上初の事例である。だからこそ原田さんは「従来の倫理学は現在時点が主な対象であったと考えられました。しかし、胎児性水俣病の確認は自然(環境)に対する配慮が未来世代に対しても必要なことを示した初の事例でした。すなわち、新たに世代間倫理(未来倫理)とでも言うべき問題が表面化してきた重要な事件でした。」という。そして2004年の水俣病関西訴訟の最高裁判決では「未来に対する危機の感覚を持つことは政治家、技術者、私たちの義務、他者の存在に対する配慮義務である」という倫理観が判決に盛り込まれた。
 しかし、考えて見れば、水俣病の公式発見から55年になろうとしている日本で、一度もこのような倫理観が守られなかったのは何故だろうか? 水俣病の発生した後に、新潟の第二水俣病が起こり、教訓は活かされず、その後もアマゾンの水俣病や、世界の環境汚染に対して、原田さんや水俣経験者の働きかけや直接行動にもかかわらず、愚行は繰り返され続けた。
 
 2002年から熊本学園大学で展開されている「水俣学」については「まず、弱者の立場の視点に立つ学問でありたいと思っています。公害は決して平等には起こりませんでした。」とある。環境学をベースにして、学者や研究者だけでなく、患者、医者、漁民、映画作家、ジャーナリストなどが、それぞれの立場から「水俣」という「大きな物語」を語っている。「水俣」は「病」に特化すれば事実が矮小化してしまう。このことは水俣の経緯を知る人ならば理解できると思う。この水俣学の講義録は既に第4集まで刊行されている。

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