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2011.04.21 Thursday

とてもキレイなヒトを観た

 友人の茂野雅道くんから久しぶりにメイルが来て、この映画の音楽を作ったのだという。彼は映画音楽の作曲家で、CMの音楽なども沢山作っている。面白い友達だ。この映画がもうじきロードショウ公開が終わるから見て欲しいというメイルだった。420日に観に行った。水曜日だったので女性が割引でたくさん来るのではなかと思ったが、17時の回は10人ほどの観客だった。

 アートドキュメンタリーについては、以前短い文章を書いたことがあるが、この映画は、「アーティスト・ドキュメンタリー」に相当する。ある時期のアート・ムーヴメントを描いたものや、奇抜な写真家を集めたものなど、時代を横軸で切った状況論としての映画がある。この作品はひとりのアーティストの作品制作の背景や、個人のアートに対する立ち位置を理解することができる。アート・ドキュメンタリーは、ユーロスペースで以前は積極的に公開していた。毎年楽しみにしていたのに、ある年から無くなってしまった。本当に面白かったのに。

 「とてもキレイなヒトを観た」と、鑑賞後に映画館のそば、渋谷のホテル街を歩きながら反芻していた印象だった。「ただ、愛してほしい」と手にとったチラシにあった。「愛」を衒い無く語ることは難しい。少なくとも僕には難しい。でも、「ピューぴる」が語る愛は、なんと言ったらいいのか、とてもそのままだ。

 誰もが「愛」を語るし、それは許されている。身近な恋愛対象への異性愛、夫婦愛、家族愛、隣人への愛、他人への愛、今なら被災者への愛情。そして自分への愛。この映画で描かれるのは、自分への愛でありながら、誰かに向けられた愛だと思う。僕らには理解しにくい部分だとも思う。

 ピューぴるが語る理想は「自分の頭の中にある中性的なキャラクター:ピューぴる」なのだと言う。男性でも女性でもない中性的なキャラクター。そこに近づこうと苦悩するピューぴるの姿が、痛い。全身脱毛、目や顎の整形、去勢手術。どれもが男性として生まれた彼が、女性に近づこうとする努力ではないように思う。どちらでもない「ピューぴる」という中性に近づこうとしているのだと思った。

 インタビューの中の、ふとした仕草や言い回しに、女性よりもむしろ女性らしい振舞いとか、「パパ」に会いたい、という少女のような彼の姿に、異形を見るような鑑賞者・自分は、手痛いしっぺ返しをもらったように思った。本当に「キレイなヒト」だな、と素直に思った。

 この映画を見てよかったと思ったのは、たまたま見ていなかった2005横浜トリエンナーレのその出品作品も、あるいは、パフォーマンスも、この映画を見ないで、その状況に立ち会っていたとしたら、こんなふうには思わなかっただろうなということだ。一瞥して「日本の現代美術はこんなやつが出てくるほど駄目になったんだ」と思っただろうな。

 技術的なこともちょっと。作者がインタビューをしながら、対話をするような感覚で現れる映像は、気持ちが伝わる反面、背景にフォーカスがずれる画面や、フレームに集中出来ていないカット、音声の聴きづらさ、など素人の作品と呼ばれかねない難点もある。大きな画面で見ていると余計に辛い。これはどちらを大事にするかという問題でもあるので、トータルな作品評価の中では不問になることかもしれないが、やはり、映像を見せているという意識は大切にしてほしい。

 最後に、茂野くんの音楽も良かったよ。「キレイなヒト」に会ったというのは茂野くんも思ったんじゃないかな。そんな歌詞でした。

 余談だけど、とてもキレイだったdumbtypeの古橋悌二さんを思い出しました。彼も「愛」を語り続けた作家だった。

 

『ピューぴる』

監督・撮影・編集:松永大司 音楽:茂野雅道

2010年 デジタル

93

2011420日 ユーロスペース


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